金融社会学の論集・テキスト(2)

 金融社会学の論集・テキストを取り上げた記事の続き。こちらでは近年のレビュー論文を中心に整理する。金融を明示していなくとも、年金や税制、保険、住宅に関する研究には金融に関連する研究も含まれている。しかし、それらを網羅するのは難しいため、目に留まったものをいくつかピックアップする。

 なお、この記事も、かつての公式サイト「寺沢重法のサイト」で公開していた資料の一部に基づいている。また寺沢(2020)を補足するものである。

 (1)総論

 金融市場全般を対象としたレビュー論文である。Keister(2002)は投資銀行を中心とする金融機関と金融市場の関係を扱った社会学的研究に注目している。Carruthuers and Kim(2011)は、特にリーマンショック以降の金融危機を念頭におき、金融市場の変動に焦点を当てている。

(2)フィナンシャリゼーション

 近年の金融論においてしばしば言及されるFinancialization(フィナンシャリゼーション、金融化)を検討したものである。フィナンシャリゼーションが生じる背景要因と社会変動に対するインパクトを検討している。

(3)年金

 企業年金などがスリム化されて以降の人々の資産形成や社会保障の変化を論じたものである。近年の日本におけるiDeCoなどを念頭に置きながら読むとより興味深いに違いない。 

(4)会計

  • 林康子(2004)「会計の根本思想を索めて─会計社会学への道程(会計・情報領域)」『愛知学院大学論叢 商学研究』45(1・2):371-388。
  • 孔炳龍(2011)「会計社会学─仮説演繹法について」『駿河台経済論集』21(1):49-58。
  • 岡本紀明(2013)「金融社会論の台頭と会計研究への示唆」『流通經濟大學論集』47(4):331-342。

 会計を対象としたもの。会計制度をめぐる理論的考察が中心である。

(5)コーポレート・ガバナンス

  株主と企業の駆け引き、つまりプリンシパル・エージェント問題が生じるという意味においてコーポレート・ガバナンスは社会学の重要な研究対象になると推察する。この論文はコーポレート・ガバナンスの社会学を論じている。

 コーポレート・ガバナンスそのものについては下記の本が詳しい。

  なお、金融社会学では「embeddedness」(埋め込み)という概念が大きな背景の1つになっている(寺沢2020)。これは経済社会学者のMark Granovetter氏による概念であり、経済や産業がそれそのものではなく社会的・文化的文脈の中で生じていることを指摘するものである。下記の論文がその詳細を論じている。

  • 渡辺深(2015)「「埋め込み」概念と組織」『組織科学』49(2):29-39。

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 参考文献

  • 寺沢重法(2020)「文献紹介『With a Little Help from My Friends(and My Financial Planner)』Mariko Lin Chang 」『理論と方法』35(1):159。