日本は台湾よりも同性愛に肯定的なのではないだろうか?

更新2021年10月24日

 台湾と日本における同性愛の是非について、世界価値観調査の第7波の調査結果を確認してみる。世界最大規模の国際比較調査の1つであり、今回で7回目、約40か国が参加している(関連記事12)。台湾と日本も参加し、2019年に調査が実施されている。

 近年の台湾イメージの1つにLGBTがある。2019年のアジア初の同性婚合法化はその

代表例と言えるだろう。台湾はLGBTについて先進的であるイメージの中には、「台湾に比べて日本はLGBTに対して保守的である」という、いわば「暗黙の前提」があると思われる。たとえば、以下のような記事に、私はそのような傾向を見て取れる。

 政策ではなく人々の価値観のレベルではどうなのだろうか。日本と比較しながら台湾の特徴を概観する。

 世界価値観調査には同性愛の是非についての質問がある。公式サイトに設置されているフリーオンライン分析システムを使用して単純集計結果を確認する。 

表1 台湾と日本における同性愛に対する是非(2019年実施の第7波世界価値観調査)
  台湾 日本
  度数 % 度数 %
1 「本沒道理」/「全く間違っている(認められない)」 335 27.4% 116 9.5%
2 73 6.0% 27 2.2%
3 96 7.8% 61 5.0%
4 43 3.5% 38 3.1%
5 331 27.1% 240 19.7%
6 76 6.2% 63 5.2%
7 59 4.9% 87 7.1%
8 69 5.7% 151 12.4%
9 47 3.9% 77 6.3%
10 「總是有理」/「全く正しい(認められる)」 93 7.6% 358 29.4%
合計 1222 100.0% 1218 100.0%
平均値   4.40   6.71
標準偏差   2.86   2.97
(出典)世界価値観調査公式サイトのフリーオンライン分析システム(2021年6月14日取得、https://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp)を用いて寺沢重法作成。DKおよびNA回答は除いてある。質問文は「對於下面的行為、請問您認為它們總是有理、根本沒道理、或是在這兩者之間?1 表示根本沒道理、10 表示總是有理。L7. 同性戀」「問 54 次のそれぞれについてあなたはどう思いますか。全く正しい(認められる)と思いますか、それとも全く間違っている(認められない)と思いますか。「1」は「全く間違っている(認められない)」を、また「10」は「全く正しい(認められる)」を示すとします。1から 10 までの数字で当てはまるものを1つお答え下さい。F)同性愛」(2021年6月14日取得、https://www.worldvaluessurvey.org/WVSDocumentationWV7.jsp)であり、表を作成する際に参考にした。

 まず、両地域ともにある程度共通する特徴は、5に回答が集中している点である。5を中間回答とみなすならば、認めるとも認められないとも言わない人々が一定数いることが推察される。

 次に、台湾と日本では1(非)(27.4%>9.5%)、10(是)(9.5%<29.4%)が逆転している点が目に留まる。台湾では同性愛を強く認めないとする人々がある程度いるが、強く認める人はどちらかと言えば少ない。一方、日本においては強く認める人がある程度いる一方、強く認めない人はどちらかと言えば少ない。日本では8が12.4%だが、台湾では5.7%である。日本は台湾より同性愛に肯定的な傾向にある様子がうかがわれる。

 そして、平均値を確認すると台湾より日本が肯定的である(4.40<6.71)。標準偏差は台湾より日本が大きい(2.86<2.97)。日本は回答結果にばらつきがあると推察する。

 これらの結果を総合的に見ると、台湾よりもむしろ日本が同性愛に肯定的と解釈することもできよう。もっとも、本調査で尋ねているのは同性愛であり、同性婚LGBTなどの単語を使用すると結果は変わるかもしれない。質問の意味が台湾と日本でどこまで一致しているかという問題もある(真鍋2003)。だが、重要な結果であると推察する。

 調査結果はL、GBTの先進的地域としての台湾イメージとはいくぶん異なる。世論レベルではどちらかと言えば保守的傾向にあるが、政策や社会運動の面で表面化するためLGBTに対して先進的なイメージが形成されるのかもしれない。政策面における動きと世論とでは傾向が異なる可能性がある。

www.worldvaluessurvey.org  2021年6月14日取得

追記2021年7月18日

 本集計結果に関連する論文として、「LGBTフレンドリーな台湾」という言説の形成過程や政治化を論じた福永(2017)がある。この論文を読む限り、台湾はLGBTフレンドリーであるという言説は政策的なものであり、人々の価値観においてLGBTはどこまでフレンドリーなのかについては、あらためて検討していく必要があることを感じた。

参考文献

追記2021年10月24日

 表をTwitterに投稿したところ、@Kagurazakahaya氏からの引用リツイートがあった。日本と台湾に加えて、シンガポールと中国の分析結果も紹介している。DK・NAを含めた結果も算出してある。行政院調査との違い、台湾版調査票の言葉のニュアンスも指摘している。