- Lin WH, Liu CH, Yi CC (2020) Exposure to sexually explicit media in early adolescence is related to risky sexual behavior in emerging adulthood. PLOS ONE 15(4): e0230242. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0230242
初期青年期における性的に露骨なメディア(sexually explicit media、SEM)を視聴することが、成人になる頃におけるリスクのある性行動(risky sexual behavior)にどのような影響を与えるのかを分析した論文。
社会医学や青少年研究に含まれ得る実証分析である。10代の妊娠や性感染症などの関連要因とされている、リスクのある性行動をどう防ぐべきかという関心に基づいている。ポルノを撲滅すべきであるという趣旨ではなく、メディアリテラシーや性教育の意義を述べるものである。
概観すると以下のようになる(頁番号はPDF版に記載されているものを使用)。
まず、先行研究はは両者の間に関連が見出されてきたものの、方法論上の問題により、因果関係の検証に弱さがあった。SEMの詳細が分析されておらず、欧米の事例が中心でもあった。
これに対して本論文は、台湾で実施されたパネルデータ・Taiwan Youth Projectを使用し、分析に操作変数法を使用することで、これらの課題に取り組むという。
なお、Taiwan Youth Project(TYP、台湾青少年成長歷程研究」は台湾で青少年を対象に実施されているパネル調査である(関連記事)。公式サイトは以下であり使用されている設問などを確認することができる。
www.typ.sinica.edu.tw 2021年5月24日閲覧
第2波調査におけるSEMが第8~10派調査におけるリスクのある性行動にどう関連するかを分析する(p.5)。それぞれの変数の内訳を少し詳しく見てみると以下の通りである。
SEMについては、ウェブサイト、雑誌、コミック、小説、映画、その他という6つのメディアにおける成人向けコンテンツに触れたことがあるかどうか(p.5)、リスクのある性行動は、初体験年齢、コンドームを使用するか否か、性交経験人数である(初体験年齢が低い、コンドームを使用しない、性交経験人数が多いものをリスクのある性行動とする)(pp.5-6)。
総体的な分析結果としては、SEMの視聴はその後のリスクのある性行動に影響を与えている。諸変数をコントロールした上での結果であるため、独自の関連が推察される。台湾の青少年においては、SEMを視聴することでリスクのある性行動を行うようになる可能性が推察されるという。
感想
- 論文中でも限界として述べられているように(p.18)、オンライン上のSEMについての変数が少々弱い印象がある。検証されているのは2000年代初期のSEMであり、その後のスマートフォンの普及などを考えると、論文とは違った結果が得られるかもしれない。
- 家族の結びつき強さがSEM視聴の低さと関連するため、親が家族仲の良さを高めることの意義が示唆されている(p.19)。具体的にどのようなものが想定されているのかがはっきりとはわからないが、台湾においては家族構造や家族観がSEMと関連するのかもしれない。この点もスマートフォンの普及によって状況が変化している可能性があるが、興味がもたれる。
- アジア社会におけるSEM視聴を分析した先行研究が網羅されている。これらを辿ることで諸地域における状況を知ることができると思われる。