「厳罰傾向と“非合理な"思考」(向井・他2017)

更新2021年4月16日

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  • 向井智哉・三枝高大・小塩真司(2017)「厳罰傾向と“非合理な"思考」『法と心理』17(1): 86-94。

 松原(2009)は厳罰意識の規定要因は何かという問いに対して、サンプリングデータの分析から人々の社会の見方が相対的に明瞭な規定要因になっていることを指摘した。この論考で特に興味を抱いたのは、物事を善悪二元論的に捉えるといった教条主義的意識と厳罰意識との関連が示唆されていた点である(松原2009:148、152)。

 本論文は厳罰志向に対する「法律の感情化」「二分法的思考」の影響にフォーカスを当てて実証しており、特に後者が上述した関心に直接的に対応する。心理学領域では「物事を白か黒か、0か100か、善か悪かのように二律背反で捉える一種の認知バイアス」(p.87)が二分法的思考であり、感情的な法意識の問題を論じる上で、重要な検討課題として指摘されてきたという。他にも「社会的支配思考」「仮想的有能感」(pp.87-88)の二つが厳罰志向の関連要因として注目すべきものであり、本論文でも重要な変数として検証される。
 主要な知見は、要約に書かれている「その結果、検討に含めたすべての変数が有意であったが、その中でもとくに情報処理スタイルと二分法的思考が厳罰傾向の大きな予測因子であることが示された」(p.86)という表現に端的に集約されている。
 本論文は二分法的思考の効果を厳罰志向といういわば政策に関連する心理に対して検証し、かつ他の諸変数との詳細な関連パターンを明らかにしたことがユニークな点だろう。知見は松原(2009)にも沿うとものであり、厳罰志向において社会認識のあり方が小さからぬ位置を占めている可能性が示唆される。
 また、二分法的思考と厳罰志向に関する先行研究、二分法的思考そのものを論じた先行研究などもわかりやすくかつ豊富に整理されており、関心をより深めることに有用だと思われる。私自身の関心でいえば、宗教性と二分法的思考に関する諸研究が面白そうである。
参考文献
  • 松原英世(2009)「厳罰化を求めるものは何か─厳罰化を規定する社会意識について」『法社会学』71:142-157。